しょうたくん

先日、車でカニを轢いた。「何を言ってんの?」と思うだろうが、文字の通りです。

私は車をほぼ毎日、家から駅までの10分間の道のりで使う。先週の朝のことだった。

別に急いでいなかった私は、ゆっくり運転しながらいつも通り駅まで向かっていた。いつも通りの路を曲がり、いつも通りの小道に入った。

 

あ、カニがいる。

海に近い川が流れている私の住んでいる地域では、カニがよくいる。だいたいのんきに道を横歩きしている。そして「どこから出て来たの?」と言いたくなるようなところにも出てくる。種類は分からないけど、全体に茶色がかったフォルムに赤いハサミを持っている。調べたこと無かったけど、何ガニなんだろうか。

そういえば、私の親は「車を運転中に動物が出て来て、避けられなかったら迷わず轢きなさい」と言っていた。なんなんだこの畜生野郎は、と思うが真っ当な意見だ。スピードを出しているのに無理に避けたりしたら事故になりかねない。だけど、動物嫌いの母が言うと何だか別の意図が含まれているような気にもなる。

 

話は戻って、カニ。

「ああ、カニがいるな」と思った私はゆっくり前進させ、ヤツが車の真ん中に来るように調節し車の下にくぐらせた。今頃車体の下で胸を撫で下しているだろう。

ある程度通過したあとに「良かった〜!じゃあなカニ」と思ってバックミラー越しに後ろを見ると、

ペシャンコになったアイツが地面に広がっていた。

 

カニといえど、かなりショックだった。その後一日、今はもういないそいつの事を考えた。何ガニなんだろうな……そうしていたら、ふと地元で昔から友達のしょうたくんの事を思い出した。

しょうたくん。

保育園から中学校まで一緒だった彼は大人しく、あまり自分から主張するタイプの子ではなかった。お祭りに参加したり、同じスイミングスクールに一緒にバスで通った思い出がある。

 

話は飛ぶが『20世紀少年』というマンガがある。過去に映画化もされた名作だ。

映画化された当時小学生だった私とその友達は、20世紀少年にハマった。それはもうメチャクチャにハマった。よげんの書も作ったし、タイムカプセルも作って家の庭に埋めた(段ボールで作ったので、浸水がひどく次の週には掘り返されてしまった)。

そんな「本格科学冒険漫画」に毒された私たちは、次にリアルの友達を作中のキャラクターに当てはめ、オリジナルのシナリオを作り出した。

こいつは太ってておっとりしてるからマルオだな、メガネかけてるからヨシツネだよなどと、ほぼ外見だけの適当キャスティングだった。ちなみに私はオッチョだった。(言い出しっぺなので好きなキャラクターになることが出来た)。

そこでさっきのしょうたくんだが、その中でも彼は名前の付いていないオリジナルキャラだった。そして彼の役回りは「暴走する巨大ロボットのキャタピラに轢かれて死ぬ」だった。友達がしたキャスティングだが、さすがの粗雑さにゲラゲラと大笑いした記憶がある。

 

そんな、キャタピラに轢かれた彼が、朝に私がペチャンコにしてしまったカニと重なった。彼、元気してるのかな。

友人に連絡をし、彼の現況を聞く。今はたこ焼き屋でアルバイトをしつつ、学校に通っているらしい。今度その店に行ってみようかしら。